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ひょんなことからアライヤ国へ招待された私は、その艷冶な一夜、つまりアライヤンナイトを満喫致し申した。何何? ご貴殿も賞味ご所望とな?ならば、こちらへどうぞ。お口に合えばよいのだが・・・。
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2021年11月19日(金曜日)更新
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謹告
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当クラブ 栗原保夫さんは昨年(2020)11月19日お亡くなりになりました。
筋力が衰える病が高じて同月3日、奥さまから入電があり「本人が声を聞きたいのと、同期のA君の電話番号を教えて欲しい・・」でした。
そして19日、奥さまから「今朝、息を引き取りました。生前は有難うございました」でありました。
当時はコロナ禍の最中でもあり、一年遅れですが謹んでお悔やみ申し上げます。合掌
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2009年01月09日(金曜日)更新
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[第 10 話] : 三番目の片目の托鉢僧の物語 (その5)
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あと一日待てばあの愛しい乙女達が帰って来る、と分かっているのです。しかし開けて良い部屋は全部探検し終って、退屈をもてあましておりました。そこへ悪魔がこう囁いたのです。<入ってはいけない部屋の扉の模様ぐらい、知っておいた方がいいのではないのかい?>馬鹿な私は、それもそうだと思い、例の部屋へ向かいました。
今まで木の陰に隠れていたので良く見えなかったのですが、その扉にもまた金箔が貼られていて、素晴らしいものでした。ただ、他の部屋と違って何か不思議な文様が描かれており、私は何の意味があるのだろうと、じっと見つめました。するとそのうちに、お酒に酔ったような、うっとりした気分になり、何故かその部屋の中にあの乙女達がいるような気がしてきて、半ば無意識に部屋の鍵を開けておりました。部屋を開けた途端、これまでついぞ嗅いだことのない、ツーンと鼻をつく強烈な匂いに打たれて、私はその場に気を失ってしまいました。どれくらいの時間倒れていたのか分かりませんが、やがて正気に戻ると、外気にふれたせいでしょう、その匂いは大分薄れておりました。
私は恐怖よりも好奇心の方が先に立って、中へ入りました。部屋の中には床一杯にサフランを撒き散らし、竜涎香と薫香に香りのある油を入れて、燃やしておりました。その油が先ほどの強い匂いを放っていたのです。
しかし、部屋の中では枝形の飾りのついた金の燭台に大きな灯がともり、沈香と竜涎香に蜂蜜を混ぜた二つの香炉が焚かれて、部屋全体は馥郁とした良い香りに変えてありました。そして驚いたことに、ご主人様、黄金の燭台の向うに、私は額に白い星を頂いた実に見事な一頭の黒い駿馬を見つけたのでございます。鞍は黄金造りで、手綱も金の鎖で出来ておりました。私は泳ぎと共に乗馬も得意で、馬を見る目もありましたので、この馬の良さがすぐに分かりました。それで轡を取って表へ引き出して乗ってみましたが、いっかな動きません。試しに金鎖の手綱で首を打ちますと、なんと大きないななきと共に、今の今まで見かけなかった二つの翼を広げまして、大空高く舞い上がったのでございます。
空中では勝手が悪いので、私は馬の首にしがみついておりました。馬は私を振り落としたかったのでしょう、盛んに首を左右に振ります。そして馬が首を左に振った拍子に、轡が左の目に当ったので、私の左目は潰れてしまいました。私が痛さをこらえているうちに、馬はしばらく空中を飛んで、とある露台に下り立ちました。
すぐさま私は飛び降り、左の目をおさえながら階下へ下りて行きました。すると何としたことでしょう!下の大広間には、あの十人の眇の若者達が座っているではありませんか・・・。そして私を見るなり、口々に叫びました。
「だから言わないことじゃない。これは貴方の自制心のなさが招いた結末ですよ」
「最初にお約束したように、私供はもう貴方をここにお泊めするわけにはいきません」
私は、同じく左目を亡くしたのですから、一緒に禊をさせて下さい、と頼みましたが、聞き入れてもらえず、放り出されてしまいました。
かくして、私はこれ以上不幸な目に合わないように、頭を丸め髭と眉を剃り落とし、托鉢僧の衣服をまとって、一路バクダッドへと向かったのでございます。当地へ着きますと、不思議なことに私と全く同じ格好をしたお坊様と出会いました。その時ご主人様方からお声をかけられたのでございます。
これが私の一部始終でございます。
話を聞き終って、ハルン王はほとほと感じ入り、その場でご自分の身分を明かされました。そして一番目の托鉢僧は片目でも弓が引けるということなので狩猟の隊長に、二番目の托鉢僧は祐筆に、三番目はお話相手に、それぞれ任じられました。三人は終生真面目にハルン王にお仕えしたということでございます。
テルリンとの最後の会話。
「クーリー様。どうしてもお話はこれでお仕舞いですか?さほど体調が悪いようにはお見うけ出来ませんが」
「体調は方便です」
「ほうべん?」
「ごめんなさい。又テルリンには難しい言葉を使いましたか。仏教用語で<目的のために利用する便宜の手段>という意味なのです」
「それではクーリー様は、嘘を・・・」
「まあ、そんなに怒り給うな。最初に申し上げるのを忘れておりましたが、お話は十話程度で終りにしようと思っていたのです。と言いますのも、『千夜一夜物語』は奇譚と呼ばれる部類のお話ですよね。確かに世にも珍しく面白い物語ですが、それだけにアクが強く、それが嵩じて行き過ぎると、エロ・グロ・ナンセンスになりかねません。
私はそういうのは嫌いですし、勿論原典もその方向には行っておりません。しかしその為に、似たような趣向になって、同工異曲の話で倦きがくるという欠点があります。倦きさせないのが書き手の腕の見せどころですが、私にはそんな筆力はありません。
私の10個ほどのお話で、『千夜一夜物語』の雰囲気は分かってもらえたと思いますし、あとは原典を読んで頂ければいいと思うのです。もともとそういう主旨で始めたことでしたよね」
「それはそうでしたけど、このままお別れするなんて悲しいですわ」
「お別れに、というのは可笑しいかもしれませんが、<アライヤンナイトの歌>を作りましたので、差し上げましょう。この歌を歌って、時にはエッチなクーリーを思い出して下さい」
そして私は次のような歌を歌いました。
<アライヤンナイトの歌>
クーリー 詞・曲
1 星の降る夜は 人恋しいけれど
泪こらえて 一人眠るわ
貴方に抱かれた夢を見て 宇宙へ飛ぶの
「アララ、そんなとこさわっちゃイヤーン」
めくるめく世界 アライヤンナイト
貴方 エッチ ネ
2 月の雫に 頬 濡らすけれど
泪じゃないわ 愛の証しよ
私はアラビア生まれの キュートな女
「アララ、貴方、何なさる気?」
虹色の世界 アライヤンナイト
貴方 エッチ ネ
テルリンは泣き笑いしながら聴いておりました。当方と致しましては、読者の皆様に
私の美声をお聴かせ出来ないのが、はなはだ残念でござーる。
[ アライヤンナイトを召し上がれ] : 了 (ご愛読感謝)
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2009年01月08日(木曜日)更新
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[第 10 話] : 三番目の片目の托鉢僧の物語 (その4)
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翌朝になると乙女は私を浴場へ案内しました。全身を綺麗に洗ってくれ、愛情をこめてマッサージをし、いろいろな種類の香水を体全体にふりかけ、それから新しい立派な衣服を着せてくるれるのです。次いで食事を整えてくれましたので、二人で食べたり飲んだりしました。
そして夜になると、皆んな揃って大宴会です。最後には又美女が一人選ばれて・・・といった具合いに、それからというもの、連日連夜、私はこの世の逸楽三昧の日々をを送っておりました。
かくしてその年も終わりに近づいたある日、乙女達が私の 周りに集まってきて、泣いたりすがりついたりしながら、こう申したのです。
「お殿様。まことに忍びがたいのですが、私供はしばらくの間お殿様とお別れしなければなりません」
「一体どうしたと言うのです?」
「お聞き下さい、わが君様。私供は皆腹違いではありますが、さる王の娘でございます。生まれてこの方ずっとこの御殿で暮しておりますが、毎年、年の始めに父と母に逢うために、四十日の間ここを留守にしなければなりません。それでその留守中に、貴方様が私供との約束をお守りになれないのではないか、と案じているのでございます」
「・・・・・・」
「これまでにも幾人もの殿方が、いらっしゃいました。しかし新しい年が明けて挨拶から帰ってみると、いつももう姿が見えないのです。私供との約束がお守りになれないで、消えてしまわれたのでございます。貴方様がそうなっては、嫌でございます」
「分かりました。必ず守ります。してその約束とはどんなことでしょう?」
「なにとぞ貴方様と私供の望みが成就しますように!この御殿には四十の部屋がございます。貴方様はご主人様ですからどの部屋にお入りになってもよろしいのですが、庭の奥の黄金の扉の部屋だけは、いけません。その中には永久に私達を引き裂くものが入っております。この事さえお守り頂ければ、私供はまた一年の間楽しく面白く、過ごすことが出来るのでございます」
「きっとそうします」
私が堅く約束しましたので、大晦日になりますと、乙女達は涙ながらに抱きついたり接吻したりして名残りを惜しみ、鍵を預けて出かけて行きました。
さて、私としましては、この御殿に来てから乙女達との逸楽にかまけ、まだどこも見物したことがなかったので、この時とばかり探検に出かけました。
まず最初に一番手近な部屋を開けますと、そこは果実に満ち溢れた果樹園でした。それは今までに私が見たこともないほど大きな、そして美しい果物の園でした。いろいろな果実がたわわに実り、どれから手をつけたらいいか、迷うほどです。
私はバナナを、それからアラビアの高貴な女性の指のように長いなつめやしの実を、柘榴を、林檎や桃を手当たり次第に採って食べました。園の中にはいくつもの小川が流れて果樹を潤しており、緑の葉陰からは小鳥の囀ずりも聞こえてきて、この上なく心が癒されたのでした。私はとてもここが気に入ったので、その日は一日そこで過ごしました。
次の日は別の部屋を開けてみました。私の前に展けたのは、種々の花の咲き乱れた大きな大きな庭園でした。ここでも又幾条もの細流が花々を灌漑しており、およそ王家の庭園にある、ありとあらゆる花がありました。
ジャスミン、水仙、薔薇、百合、すみれ、雛菊、ヒヤシンス、アネモネ、石竹、チューリップ、金鳳花、その他たくさんの、私が名前を知らない四季折々の花です。そしてこういう良い匂いのする草花の上を微風が通り抜けますと、馥郁とした香りが辺り一面に撒き散らされて、この世は例えようもなく馨しくなり、私の胸は喜びで膨らみました。日がな一日私は快い気分にひたって、詩をつくったり歌を歌ったりしておりました。
第三の部屋を開けた私は、地上のあらゆる種類、あらゆる彩りの鳥の声にうっとりとさせられました。それらの鳥はいずれも伽羅の木と白檀の枝で作られた大きな籠の中におりました。鳥の飲み水は、色のついた上質の硬玉とエメラルドの椀に入っており、餌は金の小さな皿に入れてありました。地面は綺麗に掃き清められ、鳥たちは創造者を祝福する歌を歌っておりました。私はまたも嬉しくなり、鳥の声に聞き入っているうちに日が暮れてきましたので、その夜はそこで寝みました。
四番目の部屋を開けますと、おお、ご主人様、私はたとえ夢にすら見れないような宝物を見たのでございます。そこは小部屋が四十ついた大広間で、小部屋の扉は皆開いておりましたから、すぐに中を見ることが出来ました。最初の小部屋には、鳩の卵ほどの大きさの真珠がうず高く積み上げられて、照り渡る月のように輝いておりました。二番目の小部屋にはダイヤモンドや、紅いルビー、碧いサファイア、柘榴石がぎっしりつまった大きな箱が並んでいました。
その他の部屋々々にも、エメラルドの山、純金の山、金貨の山、その他黄玉、トルコ石などの宝石類、王冠、首飾り、腕輪、宝剣、などなど王侯王族の宮廷で用いられるありとあらゆる宝石類が無数に詰め込まれていたのです。
私は両手を天に上げて、アラーにこのお恵みを感謝しました。かくして各部屋を開いて行き、三十九日が経った時には、部屋々々を全部開け終り、残るは例の禁断の部屋だけになっておりました。(つづく)
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2009年01月07日(水曜日)更新
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[第 10 話] : 三番目の片目の托鉢僧の物語 (その3)
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すると一同は申しました。
「よろしいですか、お若い方。万が一貴方が不幸な目にあわれても、私供はもう二度と貴方をお泊めするわけにはいきませんよ」
そして、一匹の牡羊を連れてきてこれを殺し、皮を剥ぎ取ると、私に小刀を渡してこう言うのです。
「さあ、この皮の上に横になりなさい。私供は貴方を包んで縫いこみ露台の上におきますからね。そのうちロックという大きな鳥が飛んできて貴方を爪でひっつかみ、大空高く舞い上がって、やがてある山の上に下ろすでしょう。鳥が羊を、つまり貴方を食べようとした時、貴方はこの小刀で皮を切り開いて外へ出なさい。鳥は人間は食べませんから、驚いて逃げるでしょう。そしたら、半日の間どんどん歩いてゆけば、やがて青空に聳え立つ見事な宮殿にたどり着きます。私供もそこを歩いていったのです。その建物は全部黄金の薄板をもって張られ、壁には一面に大きなエメラルドと真珠が、ちりばめられています。押せば門はすぐに開きますから、私供が入ったように貴方もその中にお入りなさい。中は貴方の思いのままです。貴方がそこで左の目をなくすかどうかは、貴方の心次第です。 私供は自分達の不始末で、そこに自分の左の目を置いて来たわけで、今だにその罰を受けて、貴方が毎晩ご覧になったようなことをして、それを償っているのです。かいつまんで申せば、これが我らの身の上話です」。
この話を聞いて、私はいたく興味をそそられ、是非その御殿へ行ってみたくなりました。そこで牡羊の皮に包まれ、大鳥に運ばれて件の宮殿へ参りました。着いてみると、その御殿は聞きしにまさる壮麗なものでした。
私は黄金の門から中に入ったのですが、部屋部屋の戸は金とダイヤモンドをちりばめた黒檀で出来ておりました。そして大広間に入った途端、私は四十人の乙女の真ん中に出てしまったのでございます。その乙女達は実にもう驚くばかり美しく、右を見ても左を見ても、前を見ても後ろ見ても、美女、美女、美女といった有り様で、私は目移りがして頭がボーッとなり、その場に立ちつくしてしまいました。
すると乙女達は私の周りに寄ってきて輪で囲み、快い声でこう申すのです。
「これはようこそお越し下さいました、わが殿様。ご機嫌うるわしくてなによりでございます。このひと月私達は貴方様のご訪問を心待ちにしておりました。今日から貴方様は私供のご主人様でございます。何なりと私供にお申しつけ下さいませ」
それから私を上座に座らせ、自分達は一段下の敷物に座り、そして一同で何くれとなく私の世話をし始めました。一人はお湯と布切れを持ってきて私の足を洗います。今一人は黄金の水差しに入れた香水を私の手に注ぎかけます。次の乙女は絹の着物を着せて金糸銀糸の帯を締めてくれます。また次の乙女は、花の香りをつけた味の良いシャーベット水を差し出します。
こうなりますと私の心もいくらか落ち着いてきました。そして乙女達から乞われるままに、私の身の上話をしたり、又、乙女達と四方山話にふけりました。
夜になると沢山のローソクが運ばれて、部屋はこの上なく明るく照らされました。それから卓布が延べられ、数々の美味しそうな料理や香りの高い古酒が、目の前に並んだのです。そして私達一同は皆んな一緒になって、飲んだり食べたりしました。そのうちにある者は歌ったり、又ある者はルートや笛やその他の楽器を打ち鳴らしたり、又踊ったりする者も出てきました。
私はこれまでの苦労を忘れ、すっかり嬉しくなって『ああ、これが本当に人生というものだ。この時よ、飛び去らないでくれ』と思いました。やがて寝む時間になりますと、乙女達は私にこう言いました。
「おお、いとしい殿様よ。私達の中から貴方様のお好きな一人をお選び下さいませ。その者が今宵お伽のお相手を致しまする。選ばれなかった者が気を悪くしないかなんて心配は、なさらなくてよろしいのですよ。但しその者は四十日経たないと、次に貴方様のお側には参れません。つまり私達四十人の姉妹は、皆公平に貴方様に愛して頂くのです」
そう言うと乙女達は一斉に私の周りに集まって私を取り囲み、美しい瞳で見つめながら、この上なく可愛い声で、
「お殿様!」
「こちらをお向きになって!」
と口々に叫ぶのです。
おお、ご主人様。この時の私は、もうこの姉妹達の中から誰を選んでよいものやら、分かりませんでした。なにしろどれもこれも皆美しく優しく、いずれが薔薇か百合の花、といった風情で、それぞれに異なった趣きの美しさでありましたから・・・。
私は一計を案じ、乙女達を大きな輪に並ばせました。そして歌を歌いながらぐるぐるまわるのです。私は眼をつぶって乙女達一人一人と接吻しながら反対回わりにまわり、歌が終った時に抱き合っていた乙女が、当りとしました。
眼を開いてその娘を見た時、彼女は嬉しそうに又少し恥ずかしげに再度私を抱擁し、それから私の手を取って自分の部屋へ導きました。その夜私はこの乙女と共に、この世のものとは思われぬ巫山の夢を結んだのでございます。 (つづく)
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2009年01月06日(火曜日)更新
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[第 10 話] : 三番目の片目の托鉢僧の物語 (その2)
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目が覚めると私は、夢のお告げの指図通りにしました。弓と矢を見つけ、騎士を射ち、馬を埋めますと、すぐに波がざわめき立ち、私のいる山の頂きまで達しました。そして沖合から一隻の小舟が現れましたので、私はそれに乗り込みました。船の男は一言も口をききませんでしたが、きっちり十日目になると、安泰の島々が見えてきました。私はたまらなく嬉しくなって、思わず、
「おお、アラーよ、アラーよ。アラーの御名において!アラーのほかに神なく、アラーは全能なり!」
と、叫びました。途端に船の男は私を突き飛ばして海へ落し、自分は何処ともなく姿を消してしまいました。私は泳ぎに自信がありましたので、その日一日夜まで泳ぎ続け、昼間見た島々のひとつにたどり着きました。
浜に這上がると、倒れ込むようにして眠ったようでございます。朝になって目が覚めましたので、方角を知るため歩き出しました。あちこち歩きまわって分かったことは、ここは誰も住んでいない無人島だということでした。はてどうしたものかと思いながら、私は木の実を食べ川の水を飲み 、そこで約ひと月ほど暮しておりました。
ある日のこと、ふと島の西側に目をやりますと、一日一日と潮が引いてそのあとには浅瀬が残り、二度と潮は上げてきません。そして数日経つと、その方角に干からびた陸地が現れました。これを見て私は、助かった、と思いました。その道はずっと対岸の土地へ続いていたのです。
それから私は水のない所を拾って渡り、ようやく本土へたどり着きました。荒野に出ましたので、アラーの御名を唱えながら、日没近くまで歩きました。すると突然、遥か彼方に赤い火影が現れました。私は、これは人間達が羊を焼いているのだろう、と思って近づいてみますと、それは真鍮造りの大きな宮殿が、入り日を受けてそのように燃え上がって見えたのでございます。
私はこの堂々とした、立派な宮殿を見てひとかたならず驚き、しばしこの建物に見とれておりました。すると突然門が開いて、一人の老人を先頭に十人の若者が出てきました。この若者達はいずれも見事な容姿をしており、顔立ちも皆美しいのですが、不思議な事に十人全員皆左の目がつぶれていたのです。
彼らは私に近づくと額手礼(サラーム)をして、私の身の上やここにいる事情を尋ねました。私がわが身にふりかかった一部始終を話しますと、皆んなは大変驚いて宮殿の中に案内してくれました。いくつもの部屋を通って、大広間に出ました。そこには十一の寝椅子が並べられていて、彼らは各自めいめいの場所に座りました。私は、
「のう、お若い方。そなたは上座の方にお座りくだされ。しかしこれからご覧になることや、片目の謂れなど、お尋ねになってはいけませんよ」
と、口止めされました。それから料理や飲み物が運ばれて、私供は一緒に食べたり飲んだり、また楽しく談笑しました。しばらくすると、若者の一人が老人に向かって
「ご老体、いつもの物を並べて下さいませんか。そろそろ時間になりましたから」
と、申しました。私が黙って見ておりますと、老人は隣の小部屋から、青地の布切れをかけた十枚のお盆を持ってきました。そして若者の前にそれぞれ一枚づつ置き、それから十本のローソクに火を灯すと、これを一本づつお盆の縁に立てて、覆いの布を取りました。するとお盆の上には、何と灰と炭の粉と釜の煤が乗っていたのでございます。
それから若者達は、その灰をつまんで頭にふりかけ、炭を顔の上に、煤を右の目の上に塗りつけて、おいおい泣きながら言うのでした。
「我らの今日あるは、皆自業自得なんだ。俺達は気楽に暮していたのに、片意地はったばっかりにこんな苦労を招いてしまった」
こんな調子で嘆き続けておりましたが、夜明け近くになって老人がお湯を張った盥を持ってきましたので、彼らは顔を洗い別の衣服に着替えて寝みました。この有り様を見た私の驚きは、本当に大変なものでした。しかしあらかじめ申し渡されていた言葉の手前、敢えて何も尋ねませんでした。ところが彼らは翌日の夜も、その次の夜も、そして又その次の夜も、この騒ぎを行うのです。こうなりますと、私も黙っていることが出来なくなって、とうとう叫びました。
「おお、我が殿方よ。何故貴方がたは、灰や炭や煤をお体に塗りなさるのか、また、どうして皆様全員左の目がつぶれていなさるのか、その理由を説き明かして下さいまし。と申しますのも、貴方がたのお振る舞いに私の心は困惑し、食事も喉を通らなければ、眠ることも出来ないのでございます」
すると彼らは申しました。
「何ということを、訊くのです。私供が秘密を打ち明けないのは、貴方のことを思ってのことなのですよ。貴方の得心のゆくようにすれば、貴方の身に災いがふりかかり、私供と同じように、片目になってしまうかもしれないのです」
「この謎が解けるのでしたら、私は片目などなくなっても構いません」
勢い余って、私はそんな言葉を口走っておりました。 (つづく)
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