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鈴木富夫
昭和14年新潟県村上市生まれ。
昭和37年(株)講談社入社。「週刊ヤングレデイ」「週刊現代」編集長のあと学芸図書出版部長。この時、超ベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」「気くばりのすすめ」など刊行。広報室長、第一編集局長などを経て取締役。
平成16年退任後、出版倫理協議会議長、東京都青少年健全育成審議会委員など。平成26年12月退任。
平成16年3月、偽造キャッシュカード事件の被害発覚(3,200万円は当時、日本一)。同年5月、妻晟子に6年介護の末、逝かれる。8月、東京地裁に銀行2行を相手に、訴訟を起す。平成17年3月、銀行2行が全面補償で和解成立。
18年5月、郷里村上市の隣、(旧)朝日村上中島で、本を読む塾「けやきぶんこ」を設立。 毎月10日ほど出かけている。

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2008年08月07日(木曜日)更新

第26号 「伊集院静」の2冊、緑風のなか、気持ちよく

 越後の北端とはいえ、村上の夏は、暑い。しかし、市街地に比らべ、在処にあるわが「けやきぶんこ」は、欅の樹が茂り、濃い緑の中にある。塾をやる昼夜、5回とも、エアコン不要だった。吹き抜けの天上にあるプロペラ(扇風機)を廻すだけで、OK.。結構いい風、涼しく感じる。今回は、伊集院静著「機関車先生」「乳房」(どちらも講談社文庫)の2冊。柴田錬三郎賞、吉川英治文学新人賞の作品である。事前に親しい伊集院さんに、「何にが、いいですかねえ」相談した。そして「機関車先生」に決めた。彼は、「それは嬉しい。私、送りますよ。60部」と、すぐ届けてくれる。私、著者と、こんな話、初めてである。だから、最初から、少し感激していた。本も読みやすいよ。
「機関車先生」は、瀬戸内海の葉名島、人口120人、小学校生徒7人の学校へ、30歳、大柄な吉岡誠吾先生が、北海道から、赴任してくる。しかも、その先生は、口がきけない。読むひと誰をも気持ちよくしてくれる。村上の沖には、人口400人の孤島、粟島がある。塾の皆んなも、想像しやすい。ともかくこの吉岡先生の優しさ、強さ。まるで表現は違うが、ハードボイルドなのだよ。「男は強くなければ生きていけない。優しくなければ、生きている値打ちもない」決まりですよ。
 一方初期の短編集「乳房」は、まるで違う5編が集まっている。それぞれ作家伊集院静の生き方を、少しのぞける構成である。話は表題の「乳房」と「クレープ」に集中してくる。血液癌で亡くなった前妻の女優、夏目雅子さんのこと。女性たちは皆んな知っている。「クレープ」は、最初の夫人との間の娘が、高校入学。そこで久しぶりの対面と食事、父と娘のデート、だろうか。父の戸惑い、緊張が、よくでている。「パパ、私の誕生日、知ってる?」と、いきなり問われて、ドギマギの父。塾生たち、はっきり別れた。女性は「当たり前、知ってますよ」私を含め男性は、「忘れてるよ。いつも叱られる」笑い合える。男親と女親の差、あるのだねえ。素直に「伊集院さん、ありがとう」といえる私。よかった。
 

2008年07月08日(火曜日)更新

第25号 「水師営の会見」誰もしらない、なぜ?

 本を読む塾「けやきぶんこ」も今回から3年目に入る。1ヶ月おきに読み進んだ司馬遼太郎著「坂の上の雲」第5巻になった。全8巻だから、半分は越えた。「日本の若者が、日露戦争で、たくさん死んだ。悲惨な戦場ばかり。この巻(第5巻)、は前半のヤマ場、旅順陥落です。有名なシーンが、連続して出てくる」と、私は、まず、話した。日本軍総参謀長・児玉源太郎大将、苦戦中の第3軍乃木希典大将、2人の203高地攻撃の作戦変更、そして旅順港内にいる、ロシア極東艦隊の破壊、ついにロシア・ステッセル将軍の“降伏”申し入れ。明けて1月5日、水師営で、乃木・ステッセル両将軍の会見。見せ場は、いっぱい、ある。「撮影中のNHKスペシャルドラマが、どうやるか、楽しみだね」と、いって、皆んなの反応を見る。少しヘンだよ。ほとんどの塾生、「初めて知りました」って顔をしている。50代を中心にしたこの人たち、ホント、知らないんだ。「いつ生まれたか、数年の差、大きいね」
 試みに、小学校唱歌「水師営の会見」(なんと、佐々木信綱作詞だよ!)、歌えるひと?と訊いた。誰も首を振る、知らない、と。私は、歌詞を今回の資料に添付している。
「庭に一本(ひともと)棗(なつめ)の木」この一行で、ほとんどの日本人、歌えたんだよ。今日、帰ったら年寄り(70歳以上だね)に聴いてごらん、皆んな知っているから」そして、私より年上のFさん、Sさんの顔を見た」「知ってるよ、ネ」恥ずかしそうにうなずいて、Fさんが歌い出した。いい声である。
 司馬さんは、書いている。水師営の会見のような、軍人が劇的儀礼を重んずる風は、この日露戦争をもって、世界史的に最後となった、と。実際、日本と日本人、不思議だよね。日本人なら、どんな田舎の子も、皆んな知ってた水師営の会見、昭和20年の敗戦で、パターッと日本中から消えた。伝承も何もなし。革命が起きたみたい。キレイサッパリ過去を捨てている。実は、怖いことだよ、これ。
 

2008年06月09日(月曜日)更新

第24号 塾開設2周年、女優山口果林さんも来て

 青葉繁れる中、「けやきぶんこ」は、開設2周年となった。私が、いちばん感慨の内にいる。毎月、1回の休みもなく、越後村上(旧朝日村)に通っている。毎回、2時間余を、5組こなす。「プロの先生でも、風邪や発熱、下痢で休み、あるだろう」私、威張っている。私は、当初から70歳を、区切りと考えていたから、今回は、久しぶりに、塾で、皆んなと、上品に飲むか、と考え、皆んなに案内をした。
 倖い今月の課題本は、山本周五郎著「さぶ」(新潮文庫)である。さぶと栄二のふたりの青春(15歳から25歳まで)の10年間。キミたち何回、泣くかね、私は先月、笑っていった。加えて、総会には、ゲストが来るよ、と。女優・山口果林さん。昨年暮れに、友人の紹介でメシを食い、女優さん18人の朗読劇「夏の雲は忘れない・1945ヒロシマ、ナガサキ」自主公演の話を聞いた。新潟下越、新発田、村上で公演出来ないか、の相談。その夜に、私、やってみる、と果林さんにいった。女性に対して決してホメ言葉じゃないかも知れないけど、私、意気に感じたんだね。その公演の打ち合わせで、果林さんが来る。じゃ、塾の皆んなに紹介して一緒に、と思った。
 その日は、梅雨晴間、陽気もいい。塾も2組終わった中日の日曜午後2時。わが道場には、市役所の幹部も来て、35〜6人か。丁度いい。私は、「皆んな、子どもか孫、若い子を連れて、ま、ひとり3枚だな」というと、隣で果林さんが、「何とか10枚おねがい」と、笑わせる。「上品にやるから、本日はビールだけだよ」挨拶が終わると、すぐ賑やかになった。テーブルは3つ。果林さんが、席を上手に動いて廻わる。幹事のチヨミ、ケイコ、ヒトミさんら手作りの煮物から朝もぎのトマト、キュウリなど、よかったよ。2時間半は、アッという間だった。
 さて、肝心の「さぶ」、さすが山本さんの代表作のひとつ。皆んな読んで来ているのが、私には嬉しい。2年、皆んな読んでくる。
 

2008年05月13日(火曜日)更新

第23号 若葉の中、日露戦争の無惨を読む

 春から初夏へ、この季節の「けやきぶんこ」周辺の樹々の息吹き、私のいちばん好きな景色。毎朝、ボーッと外へ出ると、欅の若葉のつき方が、変わっている。8本にも順番序列が、あるみたいで楽しい。日当たり、風向きで違うらしい。見ていてアキないよ。
 今回の「坂の上の雲」(司馬遼太郎著=第4巻)は、明治37年(1904)、いいよ、日露戦争の勃発である。地図で彼我の国土を見れば、わかる。よくまあ、こんな大国と、戦争したな、である。
 ほぼ、100年前の戦争、日本では文字通り、国力のすべてを賭ける。幕末、明治の著名人が、様々登場する。昔の日本史の勉強のし直しである。改めて知ることも多い。例えば、昭和の2・26事件で凶弾に倒れる高橋是清が、ことのき、日本銀行副総裁として、ヨーロッパで、戦費調達に、走り回っていた。彼を助けるユダヤ人、ヤコブ・シフのエピソードなど面白い。一方戦場では、緒戦から、おびただしい数の若者(兵士)が、死んでいく。海軍の広瀬武夫に次いで、陸軍では橘周太郎中佐(40)の戦死、軍神となる。唱歌で有名と。
 そして何より、旅順を攻める乃木軍の戦さの仕方。乃木希典に伊地知幸介参謀長の無能の結果、司馬さんは、“集団自殺的死”とまで書いている。指揮官の差で、若者たちの無惨な死の数々、目を覆いたくなる描写である。司馬さんは、不思議な軍人・乃木希典を、のちに「殉死」で、あらためて小説にしている。
 この間、塾のある村上近辺の兵士の話が出てくるか。1行、私は見つけた。仙台第2師団(黒木軍)の歩兵16連隊と仁平宣旬少佐のこと、隣の新発田の部隊の活躍であった。
 ともかく今回は、陸海ともに戦闘場面、遠くロシア帝国のバルチック艦隊の出動も出てくる。不様な司令官は、向こうにもいて、夜中、イギリス漁船団に集中砲火を、あびせたりしている。黄金週間(GW)を終え、村上でも、新市長、新市議30人の、政治が始まる。
 

2008年04月10日(木曜日)更新

第22号 新市誕生の中、D・フランシス「興奮」を読む

「猿熊も新市民です四月馬鹿」季語は、四月馬鹿、エプリルフール、万愚節で、いわゆる外来(聖夜など)のもの。今回の俳句組席題のひとつ。上記の句は、その日、私の作。こんな遊び、誰もやらなかった。4月1日、「けやきぶんこ」のある朝日村は、近隣4市町村(村上市、荒川村、山北町、神林村)と合併し、新たに村上市となった。私の塾の住所も、村上市上中島5−10−19となる。面積だけは巨大、新潟県1、全国有数だが、人口は7万人余。隣の山形県とは、鶴岡市と村上市で接する。私としては、妙な気分になる。「人より猿が多い。猿と本を読むのか」と三浦朱門、城山三郎、草柳大蔵氏らに、以前、嗤われた。田舎、在郷、鄙も新市か。複雑になるよ。何か面白くない。
 そんな中、庭の日陰に残雪あり。まだ寒い。暖房がいる。今回は、2度目の翻訳もの。イギリスのディック・フランシス「興奮」(ハヤカワ文庫)である。元騎手のフランシスの作品、合計40冊余ある。抑制のきいた文章、悪の闇に迫る不屈の主人公(今回はオーストラリアのダニエル・ローク)の活躍、私、昔から大好きで、全部読んでいる数少ない作家のひとり。翻訳は、いつも漢字2文字。いま、88歳である。2000年に夫人のメアリーさんを亡くし、失意で書けなくなった。喪失感もあろうが、メアリー夫人は、それ以上、資料の収集、分析で、執筆上も欠かせない人だった。長い間読んでくると、作家の私生活も透けて見えてくるのも読者の楽しみ。“競馬ミステリー”で名高いが、私のように馬券をほとんど買わない読者までも面白い。イギリスでは、コナン・ドイルやアガサ・クリスティの域に近い人である。夫人死後、‘06年に「再起、そして最新作は息子と共著の「祝宴」、お爺ちゃん、頑張っている。
 今回の「興奮」シリーズ10作目くらい。塾生の皆んな「翻訳は、名前、覚えにくい」といっていた(エド・マクベインのとき)が、驚いたね。出席のほとんど、全部読んでいる。私、いちばん嬉しい。「読者は生活習慣にならないと、続かない」間もなく、開塾2年になるが、私の企み、わかってくれてきた。
 
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