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2013年03月11日(月曜日)更新
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第81号
読んでつらくなる「凍」それまでして山は
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前号でも書いたが、私の俳句の師赤石憲彦氏の突然の死は、その後も引きずっている。毎日考えている。同人誌「俳句未来同人」をどうするか。方向が決まるのは、3月中か。間もなく74歳になる私が主宰でいいのか。そのままの村上入りだった。この冬は、積雪もさることながら(此処らで1メートル余か)、冷え込みが凄い。「けやきぶんこ」は、2回ガスが止まり、朝、水が出ない、が1回あった。7度目の冬で初めてのこと。その度に私は、アタフタした。都会じゃ考えられなかったこと、モロイね、私たちの生活。これで電気がとまったら、どうする? 私なぞモタないよ。
2月、これこそ真冬に読む本、と考えていた沢木耕太郎「凍」(新潮文庫)である。世界的に有名な登山家夫婦山野井泰史・妙子のドキュメンタリー。酸素ボンベなど一切使わない単独行(アルパインスタイル)の山野井夫婦、のギャチュンカン挑戦の話。なにしろ2人の結婚、泰史31歳、9歳上の妙子は、そのときすでに、手足20本の指の内、18本が凍傷で失くしていた。雪国の冬は、寒く冷たいが、あかぎれ、しもやけは知っていても、塾生誰もが、「周りに凍傷なんて知らない」だった。「近頃、あかぎれ、しもやけも聞きませんよ」だもの。それでも「これまで一番高い山って何処だい?」と、どのクラスでも訊いてみた。富士山が4人いたよ。鳥海山、飯豊朝日連峰、月山、北岳もあって、夏のアイガーのツアーってのもいた。結構みんな行ってるのか、と思うと、そうでもない、「私はお城山(村上城址135メートル)」っていう人もいるから嬉しい。私は、いつでも行ける、と思ってそのまま、もはや駄目のシンボルが、富士山だ。
この本、凝り屋の沢木耕太郎の本だけに、初めて知る山の知識がいっぱい。世界に8000メートルを越す山、14座、いわゆるスポーツ登山の歴史は200年余のこと。モンブラン、アイガー、グランドジョラス、マッターホルンから始まった。少し前、日本人で始めて、8000メートル級の山、全座征覇があったな、と思う。ともかく読んでいて冷たいより痛い、その先の感覚の世界、凍えてくる。いま、このご夫婦、まだ山を登っているのだろうか。
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2013年02月12日(火曜日)更新
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第80号
三島由紀夫「金閣寺」を雪の中で読む、そして
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新しい年、村上に入りした夜は、ともかく寒く冷え込んだ(1月25日)。7度目の冬、慣れているはずの私も身が縮む。夜7時、隣家板垣シンさん宅で夕食、焼酎お湯割り3杯、外に出たら、とてもとても。「こんな寒いの初めてだよ」といいたくなる。年明けの本は三島由紀夫著「金閣寺」(新潮文庫)にした。私にしては、だいぶ前から考えていて、昨年10月末に、伊勢神宮、正倉院展(奈良)に行ったついでに、京都に出て3時間、金閣、銀閣をめぐった。作者三島さんにも何度か取材をしている。東大法学部→大蔵省から転じて作家に。31歳の時の作品。間違いなく日本の文学史上に残る小説である。昭和25年7月2日「国宝金閣寺焼失―犯人は寺の青年僧」の衝撃事件、私は11歳か、憶えている。
「今年の読初め、読んだことのある人、多いだろうけど、31歳の三島さんの文章と構成、その凄さがわかるよ」と私はいった。村上に行く少し前にNHKBSで足利義満、3代将軍をやっていた。父の死で11歳で将軍、金閣寺造営以外に、明との貿易、能の観阿弥、世阿弥の保護など、いっときの北山文化の中心にいた人、51歳没。しかし悪名高き義満だが、金閣寺、いまも圧倒的である。観光の目玉。
いまなら犯人の青年僧の一人称で書かれたこの小説、モデル問題や犯人の人権など、ウルサイことになるのは間違いない。のちの「宴のあと」では、裁判沙汰にもなっている。青年の内面を文章にしている迫力、面白い。これを読んで、金閣寺(昭和30年再建)を見ると、ああ綺麗だな、だけじゃないよ。
2組目の塾(夜)の前、電話。私の俳句の師匠赤石憲彦氏急死の電話。「エエッ」だった。私が東京を発つ前日電話で話している。「2月4日慶應病院に入る。心臓近くに静脈瘤が大きくなって」「見舞いに行ってあげようか」「来なくていいです。私、俎の鯉ですから」そんな話をした。癌の手術は慣れている。81歳の没。「葬儀には出るよ。間に合わせる」といった私、結局、2組やり残して帰京。四谷の葬儀の10分前に。赤石師とは30年余か。難しい人だったが、以来ずうっと明石氏を考えている。
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2013年01月08日(火曜日)更新
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第79号
涙して百田尚樹「影法師」を読み、そして爽快
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「冬は雪があった方がいい」いつも私がいうと、「ときどき来るだけだから」チヨミ、リツさんらに反撃される。12月、カネヒロさんに新潟駅まで来てもらった。在来線は、冬場の連休は、しばしば。特に今回は、新潟着、夜9時。危ない。カネヒロさんの車で、「けやきぶんこ」に行くことにした。新潟駅周辺は、雪なし。「悪いね、雪なし風なしだのに」「大丈夫だ、先生、上中島はあるよ」10時着。
今回は、恒例の例会(23日)もある。「本当に面白いよ」と私、「影法師」(百田尚樹著・講談社文庫)を皆んなに渡してある。時代小説、主人公の戸田勘一と磯貝彦四郎、この2人の究極の友情、下士の倅勘一を「あいつは、わが藩になくてはならなぬ男」と中士の次男彦四郎が支える。読者は、最後まで、エエエッとなり、涙した人が何人も出た。塾生全員完読である。「こういう本、毎月選んでくれれば」の声、何人も。著者百田さんって、「永遠のゼロ」でデビュー、「ボックス」「モンスター」とまるで違う世界を書き、いま、「海賊と呼ばれた男」は、出光佐三を描く、ノンフィクションノベルス。私、はるかに若い作家の“力”に魅せられている。「こんな凄い話ないよ、将軍も出てこない。茅島藩8万石って何処のこと? わからないだろ、この作家の才能、忘れないでよ」と結んで、各組を終えている。読後感がこう爽快なもの、そうはない。
俳句組を残して納会。新しい年には、開塾満7年になる。塾生50人、毎月文庫を1冊、変わらない。私は、「区切りの年になる。私の趣味、道楽だったが、皆さんのおかげで、私、本気になっている。身体に気をつける」といい、「記念にカレンダーをつくった」と披露した。「けやきぶんこ春夏秋冬2013」である。編集デザインは、東京の後輩、印刷は地元村上。A1の1枚、読むカレンダーである。「A1なんて大きいよ、何処に張るの?」東京では、いわれるが、「田舎の家は大きい。壁なんかいくらでも、ある」が私。つくろうと想ってから1年かかった。四季が鮮やかにくっきり、けやきぶんこの屋根の凄い雪、「こんなところ、日本でもそうはないのだよ」といっている。読みたい本、いっぱい、私、焦ってる。
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2012年12月10日(月曜日)更新
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第78号
冬が来た!「テロリストのパラソル」を読んで
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歳時記通りに村上に冬が来ている。11月の後半。「霰や小雪の日もあったけど、積もるほどじゃない」姉フミコの話。朝夕の冷え込みと、ほとんど連日の雨と風。庭の落葉もあちこち吹きだまっているが、片付けようがない。ベッとり雨にぬれて重いのだ。「1年でいちばん汚い月だな」ブツクサ独言の私である。
今月は、藤原伊織著「テロリストのパラソル」(講談社文庫)である。史上最強のデビユー作とある通り、江戸川乱歩賞と直木賞、同時受賞の傑作。史上初で、その後もない。いわゆる“70年安保”闘った東大生の20年後のテロ事件。新宿西口の公園での爆弾テロから、昔の人間関係がわかってくる。私なぞの10年後の人たちの話である。安田講堂占拠、日大全共闘事件から後の日本赤軍の話につながっていく。作者の語り口の上手さ、台詞の切れ味ともに鋭い。出席の塾生、もちろん全員、完読している。作者藤原氏が、59歳の若さで亡くなっている。どんな大作家になっていただろう、と想像させる傑作だった。私にとっても、新宿ゴールデン街などのバーでは、元全学連がマスターやママやっている店もあって懐かしい。
ともかく冬が来ている。忙しい。けやきぶんこ用の車(ジムニー)の冬のタイヤ、冬ワイパーへの交換、いまの私では、とても自分じゃ出来ない。灯油(石油ストーブ用)の準備補充、とても雪囲いまで手がまわらない。天気が悪すぎる。11月25日(日)秋の遠足で、鶴岡へバスで行く。この日だけ珍しく晴れ。参加者15人。くらげ(海月)水族館の見学が目玉で、あとは、湯の浜温泉でゆっくり昼めしと湯につかり休息というもの。小さなつぶれかかった加茂水族館が、くらげ水族館に模様変えして大当たり。私、東京で評判聞いていた。一種の“会社起こし”の大成功例、ぜひ見たかった。くらげのさまざまに見とれ、座り込み、「こいつら食ってヤル(生殖)、そのままだな」見とれちゃった。塾生は何度も来ている人もいる。バス待たせちゃった。この季節、名物の三面川の鮭がある。岩船港の専売所に行く。東京で世話になっている人たちに生鮭を送る手配だ。「今年は天気も悪いし、鮭も少ない」嵐の日の朝だった。
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2012年11月07日(水曜日)更新
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第77号 有吉佐和子「悪女について」を読む。美貌の彼女の死とは。
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村上の市街地を抜け、国道7号、小川の交差点を右折、上中島を目指す。左右に広がる田圃、稲刈りは終わっている。何とも寂しい。豊かな実りのときが過ぎている。「此処らは、はや冬隣、すぐ雪囲いやら何やら冬仕度だなあ」ひとりごちして、「けやきぶんこ」へ。弟ヨシヒコ夫婦が「ストーブ出しておいたよ」のメモあり。まだ10月半ば、まだ早いよ、と思ったが、姉フミコも朝、夜は寒いよ、だった。実際、毎日のようにストーブを使うことになる。越後と関東、冬はまるで違う。
今月は、有吉佐和子著「悪女について」(新潮文庫)である。大作「吉里吉里人」を3ヶ月かけて読んだあとなので、少しくだけた男と女の小説と思っていた。有吉さんのこの作品、「週刊朝日」連載(昭和53年)である。主人公・富小路公子が、自社ビル七階から落ちて死亡する。自殺か他殺か事故死か、彼女をよく知る27人の男女が、いろいろ証言する。「週刊朝日の連載27回、1人1回でこんな厚さの本になるのだよ」従って公子は登場しない。周りの男女が、それぞれの公子との関わりを語る形式になっている。昭和11年生れの公子、東京・乃木坂の八百屋の娘、中学を出ると簿記学校に通い、会社38を持つ実業家になっていく。男女の関わりをもった男は5人、結婚2回。息子2人。日本の高度成長の波に乗って、土地(ころがし)と宝石で富を築く。名前も鈴木君子から富小路公子に。成功してからは、年齢10歳もサバ読んでいた。社員のアラン・ドロンばりの美青年と婚約し、ハワイで挙式を10日後に控えていた。幼なじみの愛人がニューヨーク在住で、ハワイのあと、逢い引きの約束までしている。
私は、どの組でも、「男には悪女の方が魅力的なんだよ」を連発していた。公子の素顔も見えてくる。果たして真相は何か。
この小説は、週刊朝日連載のあと、単行本は新潮社。珍しいことじゃない。その時の担当編集者キワコさんは、後輩だった。「公子が何んで死んだか、真相は読者のご判断におまかせ」が、作者の弁の由。自殺と事故死が半々、他殺2〜3人でしたよ。それにしても有吉佐和子さん、小説、うまいなあ。
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